私が仕事を通して得た、感動とやりがい(部下編②)
以下のようなキャリアの方がいました。
・専門分野の経験:2〜3年
・英語力:TOEIC780くらい。ある程度の英会話も可能。
・前職で部長職経験あり。
このご経歴の方、皆さまの組織では活躍していただけそうですか?
私は、この方の履歴書を拝見したときに、「私の管轄下で活躍いただけるだろうか」「構築されつつあるチームの歯車が噛み合わなくなるのではないか」など、とても悩みました。
当時は、業務をこなせる業界経験よりも、メンバーを束ねるリーダーシップの有無を重視していましたので、魅力的なキャリアでした。
しかし、私より7歳年上の男性でしたので、私自身が適切にリーダーシップを発揮できるかにも不安があり、上司にも相談した結果、私の部署では書類選考時点で不採用と判断しました。
ところが、別の部署で最終的に採用が決まり、私が所属する会社に転職してこられました。
入社後、業界を理解するためでしょうか、新卒も通る道を同じように通るよう配置されたようです。その後は、他部署のことですので詳細は知りませんが、コミュニケーションが上手くいかなかったようで、1年前後で別の部署に異動となりました。
次の異動先では、部内でのコミュニケーションにも問題はなく、プロジェクトマネージャーとして活躍されました。
しかし、更にその1〜2年後には、組織の統廃合で該当部署の業務分承が変更となり、その方は、元の部署界隈に戻ることが適切な状況となってしまいました。
ですが、該当部署界隈から異動となっていた経緯もあってスムーズに異動は決まらず、受け入れ先検討者リストに名前が上がり、各部での受け入れを検討することになりました。
私の部署でも受け入れリストを検討したのですが、そのリストを検討する過程で、私は勝負に出てみることにしました。
その頃は、たまたまその方と座席も近く、時には雑談する機会もあり、お人柄に問題ないことは確信していました。あとは、私が提示するキャリアプランに、ご本人が同意してくださるかどうか次第でした。
その方は、休日を挟んでしっかり考えてくださいました。
そして、私の管轄下への異動を決心してくださいました。私が提示したキャリアプランに同意してくださったのです。
報告頂いた時のメールには「チャレンジの機会を下さったことに心から感謝いたします」とありました。
私の部署への異動後は、部署の向かうべき方向を理解し、積極的にリーダーシップを発揮してくださいました。「方向性を見誤っている」又は「方針を理解しかねている」部下を率いるために、定期的に私へのホウレンソウもありました。
この方のチームは、「Projectの契約形態が普通とは違う」「この方と同じような異動を経験したヒトの割合が高い」といった様々な特殊事情があり、一筋縄にはいかないチームであることは承知していました。
しかし、異動1年後には、売上も利益も1.5倍に伸ばすまでのチームに成長しました。
会社の目標を達成するためには、やはり「ヒト」の相互理解がとても大切です。
この方と協働した期間は、この大切なこと(「ヒト」を見てマネジメントしていくこと)を改めて痛感した期間でした。
この方は、上司である私への配慮も際立っていました。
一番心に残っているのは、私が「自分らしく」活躍できていなかった時期に、私の心境を察して声をかけてくれ、時間のない私に配慮して、私の帰宅時の電車の中で相談に乗ってくれたことです。
私の帰る時間は、みんなよりいつも2時間早いですが、それに合わせて仕事を終わらせ、この方の通勤経路ではない沿線の中、私の悩みに親身に耳を傾けてくれました。
上司の立場の私としては、部下に悩みを聞いてもらって情けない上司なのかもしれませんが、上司に気遣える部下なんて、そういません。(私の方が年下だったので、目につく点が色々あったのだろうとは思いますが)
この方は、部下へも上司へも、もちろん顧客に対しても、同じように気を遣える方だったのです。
ある時、なぜ今の域まで成長することができたのかを尋ねてみました。
この方の回答は、「自分が苦しい経験をしてきたからこそ、他人を思いやれる」といった内容の体験談でした。
「若い時の苦労は買ってでもしろ」とは言いますが、苦労した経験を持つと「ヒト」を見る目も長けるということでしょうか。
私の中では、「次期部長はこの方しかいない」と感じていましたので、タイミングを見ながら他のチームの状況も共有し始めていました。この方は業界経験がまだ少ない方だったので、色んな疑似体験をしてもらうためです。
ご本人は謙遜していましたが、年齢的には全く違和感はないため、この方が将来部長として舵をとれるよう、私は必要な知識のアウトプットを惜しみませんでした。
そして私は、組織体制が充実してきているので、また新たな次のチャレンジができると読んでいました。そして、間もなくしてその機会が訪れました。
この方と一緒に、新たなProjectに着手し、次の礎を築こうとしていました。
しかし、突然その日はやってきました。
この方が退職を申し出てきたのです。
私は頭の中が真っ白になりました。
一番身近で指導していた部下が退職を考えていたことを、気づけなかった自分が情けなかったです。
退職理由は「今の仕事はとても充実していて、面白いと感じているし、とてもやりがいがある。でも、昔からの夢が叶うチャンスを掴んだので、そちらにチャレンジしたい。」との事でした。
私は、真っ先に組織の立て直しについて頭がよぎり、絶望的にもなりましたが、この方の転職については、素直に応援しました。
やはり、人生に前向きにチャレンジしている方は素敵です。
私の組織のポテンシャルは確実にダウンしますが、この退職理由を聞いて、この方を会社に引き留める気持ちは微塵も湧きませんでした。
「ヒト」と「ヒト」の縁は、いつも何かの見えない線で繋がっているような気がします。
この方の履歴書を拝見してからの一連の出来事は、私が「ヒト」のマネジメントするにあたっての重要な要素がいくつもありました。本当にたくさんのことを学びました。
そして、この方との協働を通じて、会社で働き続けるために一番大切なことを理解しました。
それは、「一人一人の個人的な目標や夢・価値観が、会社・仕事上でのキャリアプランや目標・経営方針等と融合しているかどうか」です。
人生という個々のレールの上に仕事があるのであり、仕事や会社の上に自分の人生のレールが引かれているわけではありません。
当たり前の話ですが、既にある会社や業務を基準にすると、自分を見失います。
恥ずかしながら私は、この方に退職を宣言されるまで、このことを完全に見失っていたように思います。
それから数日後、私自身が退職を決意しました。
以下の記事内のこの一文が、本件になります。
触発される事件があって2度目の退職検討に入りました。
決意後、まずはこの方に報告しました。大変驚いていましたが、この方も私を応援してくれました。
この方の退職後、これまでに1度だけ再会しました。
お会いした場所は、彼が率いていたチームの部下の、結婚式の披露宴です。
転職先では苦労されているとの噂話を人づてに聞いて心配していたのですが、ますます景気良さそうな話っぷりにホッとしました。
私にとっては、またいつの日か、一緒に色々語り合いたい「ヒト」のお一人です。